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大阪地方裁判所 昭和51年(わ)1268号 判決

主文

被告人両名を各罰金五万円に処する。

被告人らにおいてその罰金を完納することができないときは、金四千円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)その被告人を労役場に留置する。

訴訟費用のうち、証人亀山功、同森長政雄、同中道義則、同岡田権治郎、同杉田修、同喜田勝彦、同長井末太郎、同高山澄弘、同生田登志雄、同梶原治郎、同清水孝彦、同太田光章、同斉藤英雄、同稲田斉、同小川実に支給した分は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(本件犯行に至る経緯)

被告人両名は、いずれも加藤海運株式会社大阪支店に現場作業員として勤務し、港湾労働に従事し、港湾関係の労働組合で構成される大阪港湾労働組合協議会(以下「大港労協」という。)傘下の全日本港湾労働組合関西地方本部(以下「全港湾関西地本」という。)沿岸南支部カネカ分会に加入し、被告人旭幸美は昭和五〇年秋ころから同分会執行委員、被告人加来洋八郎は同四八年一〇月ころから同分会分会長、同四九年一〇月ころからは同沿岸南支部執行委員の地位にそれぞれあつたものであるところ、同四九年七月一〇日、大阪市が中心となり資本金(払込一〇億円)の半額を土地による現物出資をして、自動車ターミナル法に基づくトラックターミナル、倉庫、駐車場並びにこれらに附帯する施設の建設及び管理運営等を目的とする株式会社大阪南港複合ターミナル(以下「複タ会社」という。)が設立され、同五〇年九月ころには南港フェリー埠頭に近接して大阪市住之江区南港東三丁目に同会社のトラックターミナルの建設工事が開始されたが、港湾労働者を主力とする大阪労協としては、早くから右トラックターミナルが港湾労働者の職場を奪うものではないかと懸念しており、同年四月五日には、複タ会社及び大阪市港湾局、近畿海運局、大阪府労働部等の関係官庁に対し、右ターミナルにおける全ての作業が港湾運送事業法の適用範囲内のものであることを確認すること、右ターミナルにおける諸作業には港湾労働者を従事させること、右の各点その他につき協議するため関係官庁、港運業者、埠頭関係業者、労働組合による対策会議を設置すること、右対策会議が設置されるまでの間、右ターミナル建設工事等を中止すること等を要求するいわゆる四・五要求書を提出した。これに対し大阪市港湾局等は、右トラックターミナルは港湾運送事業法の適用範囲外であつて道路運送業域であるとして、その後の度重なる大港労協の要求にもこれを無視しつづけていたが、一方港湾労働者の使用者団体であり大阪労協との交渉団体である大阪港運協会も右トラックターミナルにおける諸作業には港運業者が行うべきものがあるのではないかとの疑念を抱いていたところから、大阪市港湾局等に対し、大阪港運協会が右ターミナルを利用すべき業界等の側の窓口となつて大港労協と右職域確認要求につき協議すべきことを申し入れた結果、大阪市港湾局も同五〇年九月一六日付をもつて、大港労協に対し、右諸要求については大阪港運協会と協議して欲しい旨回答し大港労協もこれを了承し、とりあえず大阪港運協会側の協議の調うのを待つことにし、大阪港運協会は同九月二〇日ころと同月末ころの二回にわたり、近畿海運局、大阪市港湾局、大阪府労働部、複タ会社、大阪倉庫協会と一同に会して右ターミナルにおいて行なわれるべき諸作業が港湾労働法、港湾運送事業法の適用を受けるべきものであるか否かにつき論議したが、右ターミナルの利用を予想されるトラック業界を代表する者の出席を得られなかつたことや、当時は右ターミナルに進出すべき企業も具体的には定つていなかつたこともあつて結論は得られず、同五一年一月ころ、大阪港運協会は大港労協に対し右職域確認要求について協議すべき窓口とはなり得ない旨表明したため、大港労協は再び右諸要求につき協議すべきことを大阪市港湾局等に求め、同五一年三月二日、同年四月二日、同月八日の三回にわたり、大阪府労働部(但し、四月二日、同月八日は出席せず。)、大阪市港湾局、近畿海運局、複タ会社と前記諸要求につき協議したが、何らの進展を見ることがなかつた。

一方、大港労協の上部団体である全国港湾労働組合協議会(以下「全国港湾」という。)は、その交渉団体である日本港運協会との間で昭和四九年四月以降港湾労働者の年金制度の確立につき協議してきたものであるが、同五〇年一二月交渉が決裂し、全国港湾は同協会に対し同月一二日からの四八時間全国全港ストを通告したところ、その直後に右交渉が再開するにいたり、同一二月一一日、港運業者の他に荷主、船主も年金基金の拠出者とすることを前提とし、事務職や登録日雇労働者も受給対象者とすること等を内容とする協定の成立を見たものの、日本港運協会は同五一年二月一三日に至つて荷主や船主は年金基金の拠出者とせず、事務職も受給対象者から除外する旨を主張するに至り、全国港湾の局面打解のためのトップ交渉の要求をも拒否したため、全国港湾は、同五一年三月二五日付をもつて日本港運協会に対し、年金の財源は、船主・荷主・港運業者の三者拠出によるものとし、産業別年金を確立すること、適用範囲は、事務職・登録日雇港湾労働者を含めたすべての港湾関係労働者に適用すること、年金額は、老後の生活を保障するに足りるものとすること等の要求を掲げて、第一波として同三月三〇日全港、全職種の二ないし二四時間ストライキ、第二波として同年四月三日から同月九日まで全港、全職種の時間外拒否、第三波として同月一〇日始業時から同月一二日始業時までの全港、全職種の四八時間ストライキをそれぞれ行う旨の通告を行い、大港労協も右年金制度に関する諸要求の他、独自の要求として前記複タ会社のトラックターミナルに関する諸要求を掲げて右ストライキを行うこととし、右四月一〇日の第三波のストライキに際し、大阪市住之江区南港東七丁目先港大橋南詰交差点(本件犯行現場)、同所東三丁目先南港東三丁目交差点、同所東二丁目先南港東二丁目交差点の三箇所においてピケットラインを設け、ストライキ中の事業所等に向う貨物自動車の運転手等に対し、いわゆる説得活動を行うこととし、前記四月八日の会合の後大阪市港湾局に対しその旨のストライキ通告を行い、同港湾局は翌九日、関連企業に対し右通告の内容を伝えて混乱の起きぬよう取計らつた。

被告人両名は同月一〇日の右ストライキに参加し、本件犯行現場におけるピケ要員として本件現場に赴いたものである。そして、大港労協の組合員約一〇〇名は、その第一回目として同日午前八時一〇分過ぎころから約五分間本件道路上に出て座り込むなどしピケッティングを行つた。

(罪となるべき事実)

被告人両名は、大港労協に加入する労働組合員約一〇〇名と共謀のうえ、大阪市住之江区南港七丁目先港大橋南詰交差点北側南行車線道路上において、

第一  昭和五一年四月一〇日午前八時四八分ころから同五九分ころまでの間、別表(一)記載のとおり、九条運送株式会社の自動車運転者杉田修(当三三年)ほか三名が運転進行中の貨物自動車等の車輌四台の進路前方に立ちふさがり、あるいは同所に座り込むなどしてその運行を阻止し、もつて威力を示して右運転者らによる同会社等の貨物運送等の業務を妨害するとともに、道路において交通の妨害となるような方法で座り込むなどし、

第二  前同日午前九時二五分ころから午前九時三〇分ころまでの間、別表(二)記載のとおり、大正陸運株式会社自動車運転者生田登志雄(当二五年)ほか四名が運転進行中の貨物自動車等の車輌五台の進路前方に立ちふさがり、あるいは座り込むなどしてその運行を阻止し、もつて威力を示して右運転者らによる同会社等の貨物運送等の業務を妨害するとともに、道路において交通の妨害となるような方法で座り込むなどし、

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人らは、被告人らの本件各行為は争議行為として正当なものであつて、違法性がなく、仮に違法性があるとしても、被告人らは単純な参加者にすぎず、本件ピケッティングも暴力行為を伴わず、短時間かつ平穏なものであつたから未だ可罰的な程度に達しておらず、いずれにしても被告人らは無罪である旨主張するので判断する。

被告人らが本件各犯行を為すに至つた経緯は判示冒頭に認定したとおりであるところ、前掲実況見分調書抄本及び各現場写真撮影報告書の他、司法警察員作成の昭和五五年八月二〇日付捜査報告書、証人内川大忠の当公判廷における供述、検察官作成の捜査報告書によれば、判示犯行現場は大阪市港区から通ずる阪神高速道路の出口から南へ約一五〇メートルの丁字型交差点で、南北方向の幅員は五五メートルで、幅25.5メートルの中央分離帯により北進車線と南進車線(幅員15.27メートルの三車線)に分けられ、南進すれば南港大橋を経て大阪環状線、大阪内環状線に連絡する主要路線と交差していること、附近にはフェリー埠頭、コンテナ埠頭等港湾施設や海運会社等の他、港湾もしくは港湾労働とは関係のない企業も存在していること、犯行現場の交差点は信号機による交通整理が行なわれており、南北方向に対面する信号機の青色は右交差点より更に南側の南港東五丁目交差点の、自動車のエンジン音を感知して周期を自動的に変化させる親信号機に連動して、六五秒ないし一六〇秒の間で変化するもので、その間の赤色周期は三七秒であること、そして被告人らは約一〇〇名の者と共に前示第一回のピケッティングに続き判示のとおりそれぞれ約一一分、五分の二回にわたり南行車線を完全に塞ぐ形で車道上に入り込み、座り込むなどし、乗用車等は道を空けて通過させたことは認められるものの、トラックについては無差別に停止させたままにしたこと、現実にも判示各停止車輛による業務はいずれも港湾労働とは無関係なものであることが認められ、以上の事実によれば、被告人らの判示各所為はその手段において到底正当な行為ということはできず、違法たるを免れない。なお、弁護人が、労働争議の際のピケッティング等について最高裁においても違法性を欠くとの判断がなされたとして援用する各判決は、いずれも、そのピケッティングの相手方が同一組合員ないし使用者側従業員に対するものであつて、本件のように全く無関係な第三者に対する行為についてこれを同列に論ずるわけにはいかない(この点については後に詳述する。)。

次に、可罰的違法性を欠く旨の主張についてみるに、違法性の阻却につき如何なる理由付けをするにせよ、勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当つては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならないものであるところ(最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決)、検察官は本件争議についてその解決がほとんど不可能ないわば過大な要求にわたるもので、正当な争議行為とはいえない旨主張しているので、まずその点について判断することとする。

はじめに、前記港湾労働者年金制度確立についての日本港運協会と全国港湾との交渉経過についてみると、前掲証人吉岡徳次の当公判廷における供述及び社団法人日本港運協会発行の「中央港湾団体交渉Ⅰ」によれば、前示昭和五〇年一二月一一日成立の協定においては、年金制度の運営は新たに設立する公益法人によつてすることとされ、財源拠出者として船主、荷主をも予定された産業別年金制度ともいうべきものであり、適用の範囲は、原則として事務職を含めることとされていたものであつて、右協定の成立により、全国港湾は予定されていた前示同月一二日からのストを解除するなどしたものであるのに、日本港運協会はその後に至つて財源の拠出者として船主、荷主を引き込むことに失敗したことなどから、態度を飜えして企業別集団年金制度を提唱し、年金額も月額要求額一〇万円に対し七〇〇〇円、適用の範囲も現場作業員に限る旨主張するに至り、遂に翌五一年二月一三日中央団体交渉は決裂するに至つたものであつて、この点については、船主、荷主が財源を拠出するか否かは船主、荷主の意思に係るものであり、また、適用の範囲や年金額については財源に左右されるところが多く、船主、荷主がこれを拠出しない以上適用の範囲が狭まり、年金額も少額となることも一応やむを得ないものといえなくもないが、日本港運協会としては前記のような協定を締結する以上当然船主、荷主の説得に自信があつてのことと見ざるをえず、もしそうでないとすれば、同協会は単に当面のストライキ解除のみを目的として安易に右協定に応じたものととる他はなく、いずれにしても全国港湾側が、その後における右日本港運協会の態度に不信感を抱くに至つたのは当然の推移ともいうべきであり、この点に関する同協会に対する要求をもつて、単純に、不能を強いるものとして不法視することはできないのである。

また、大港労協と大阪市港湾局等との複タ問題についての交渉経過についても、複タ会社は判示の目的で設立されたものであり、海陸一貫輸送を目ざすものであることはその立地条件よりして明らかであるところ、判示トラックターミナル内における諸作業に港湾労働法を適用すべきであるか、あるいは右作業の中にその適用を受けるべきものがあるか否かについては、右ターミナルに進出すべき企業、取扱貨物や作業の実態如何にも係るものであり、大阪市港湾局等の関係官庁や複タ会社との協議によつても必ずしも容易に解決し得べき事柄とは思われないが、前掲証人吉岡徳次の当公判廷における供述によつて認められる、港湾労働の特殊性(即ち、日々の仕事量の著しい変動による不安定性とこれに伴う中小零細港運業者の乱立、異種の労働の結合による運営、労働集約型の移動産業であり、港湾全域が作業場ともいえること、労働条件の苛酷さ、劣悪さなど)や、船会社、荷主等によつて進められたコンテナ船の導入、カーフェリー航路の開設、国や地方公共団体のこれに見合う港湾政策の推進、たとえばコンテナ埠頭の築造、整備等による港湾の合理化、近代化に伴う港湾労働部門の縮少即ち職域の減少等を考慮すれば、大阪市港湾局をはじめとする関係官庁も、右のように港湾の近代化推進の一翼を担つたものとして、ことに大阪市が複タ会社設立の中心となつたことでもあり、港湾労働者の職域減少に伴う不安の解消に力を尽すべきは当然であり(なお、この点については、我国では比准されておらず、また、各国の国内法または慣行に基くべき旨の制約を付しているとはいえ、第五八回ILO総会において採択されたILOの一九七三年港湾労働条約((港湾における新らしい荷役方法の社会的影響に関する条約))及び一九七三年港湾労働に関する勧告((港湾における新らしい荷役方法の社会的影響に関する勧告))においては、新らしい荷役方法について労使両当事者の協力と、主務官庁の参加に関する規定((条約五条))を置き、労、使、官において荷役方法の変化の影響の調査を定期的かつ系統的に査定し検討すべきである((勧告2の(3)))とし、特定の職種の港湾労働者に対する需要が減少する場合は他の職種の仕事に就けるよう再訓練することによつてこれらの労働者を港湾産業内の仕事に止めておくようあらゆる努力がなさるべきであり、再訓練は、予想される運送手段の変化に十分先立つて実施されるべきであるとされていることに留意すべきである。)、また、本件後の昭和五一年八月二七日、大阪市港湾局、大阪府労働部、近畿海運局と複タ会社及び大港労協の間にもたれた協議会についての議事確認書において、右三庁の出席協議委員も認めているように、本件ストライキ前における三庁の対応の仕方には疑問を抱かざるをえない点も存するのであつて、大港労協が本件ストライキのスローガンに右大阪市港湾局等に対する要求をも掲げていたとしても、これをもつて検察官主張のように単なる政治ストに類するものとしてこれを違法視することはできないのである。結局本件労働争議自体は正当とい判旨うべきであるところ港湾労働の職域は前示のようなその特殊性から港湾全域にわたるものとも考えられるから、大阪南港の入口である判示本件現場においてピケッティングを行うことも、その方法の如何によつてはあながちこれを不当ということはできないのである。ところでピケッティングには、弁護人も指摘するように(1)組合員の団結を鼓舞し、その脱落を防止するための団結強制機能、(2)使用者側によるスト破り等を阻止するための団結示威機能、(3)一般公衆や顧客等第三者に労働争議の存在を公示し、その支援を要請する公示宣伝機能が存するのであるが、右第三者機能を果たすための手段は、それが全くの第三者に対するものであるということからその性質上右第一及び第二の場合に比し自らなる抑制が求められるものであることは言をまたないところ、本件ピケッティングはその対象からみて右第三の機能を果すために行われたものと考えられ、弁護人も、本件ピケッティングの目的は本件ストに付随してその実効性を確保するために行われたもので、ストライキ協力のための説得とそのための暴力行為を伴わない実力阻止を具体的目的とした旨主張するが、その現実をみるに、当時の南港地域はいかに埠頭及びその関連施設が中心をなしていたとしても、被告人らは南港地域を通り抜ける車輛や、港湾労働に係わりのない車輛、大港労協に属さない運転手などの存在を全く無視して無差別に貨物自動車の通行を阻止し、しかも被告人らの行動の目的についての説明、説得の担当者も定めず、説得も不十分なまま(判示各運転手らは、いずれも本件ピケッティングの目的についての説明を受けておらず、せいぜい賃上闘争と考えたものがいる程度である。)、判示のとおり道路上に座り込むなどし、それがトラックであるというだけで全くの無差別に、被告人らの組合や港湾労働とは全く関係のない第三者である被害車輛の業務を妨害したものであつて、前示公示宣伝機能を果たすためのピケッティングとしては明らかに度を過したもので、前判示のとおり違法な行為というべきであり、しかも被告人らは本件現場においてこそ直接他の組合員を指揮誘導するなどの行為に出た形跡は認められないが(この点に関する証人坂本龍三郎、同堺幸八郎の各供述は、その供述自体に存する矛盾、多数の現場写真が撮影されながら右行動を窺わせるものは皆無であること、右写真中には第三者を被告人加来として特定したものも存することなどからして到底措信できない。)、前判示のとおりいずれも前示支部ないし分会(約二一名)の役員であり、単なる平組合員とは異なり、分会の中心として参加したものであつて、右の各態様に照らせば、次の諸点即ち、本件争議行為自体は違法とはいえず、本件ピケッティングに際しても、暴力等の有形力の行使はもちろん、暴力的言辞すら用いられた形跡はなく、通行を阻止された時間も短時間に過ぎず、現実には各被害者の業務にさしたる影響を与えていないこと等の諸点を考慮しても、被告人らの本件行為をもつて未だ可罰的違法性を欠き法秩序全体の見地から許容されるべきものであるとは到底いえず、弁護人の右主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人両名の判示第一及び第二の各所為中各道路交通法違反の点は刑法六〇条、道路交通法一二〇条一項九号、七六条四項二号に、各威力業務妨害の点は刑法六〇条、二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するところ、右の第一の所為は一個の行為で四個の罪名に触れる場合であり、第二の所為は一個の行為で六個の罪名に触れる場合であるので、刑法五四条一項前段、一〇条によりそれぞれ一罪として法定刑且つ犯情の最も重い、判示第一については別表(一)の2の、判示第二については別表(二)の5の各威力業務妨害罪の刑で処断することとし、後記情状により所定刑中いずれも罰金刑を選択し、以上の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人両名をそれぞれ罰金五万円に処することとし、右各罰金を完納することができないときは、同法一八条により金四千円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)その被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用の中、証人亀山功、同森長政雄、同中道義則、同岡田権治郎、同杉田修、同喜田勝彦、同長井末太郎、同高山澄弘、同生田登志雄、同梶原治郎、同清水孝彦、同太田光章、同斉藤英雄、同稲田斉、同小川実に支給した分は刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件各犯行は判示のとおりの経過で惹起されたものであり、年金制度確立についての被告人らの要求についてはもちろんのこと、フェリー船、コンテナ船等の就航により被告人ら港湾労働者の働く場が次第に狭まり、雇傭不安を招いていた当時、トラック輸送とフェリー船の効率的結合を目ざした判示複タ会社のトラックターミナルが、被告人ら港湾労働者にとつて労働の場を一層狭めるものとして受取られたのも当然であり、その為右トラックターミナルが港湾労働者の職域であることを認めるよう関係官庁等に要求した心情は充分理解し得るものであり、本件犯行現場を含む判示三箇所のピケッティングは、港湾施設及び港湾関係企業の集る南港地域全体が港湾労働者の労働の場であり職場に他ならないとの考えのもとに設定されたものであつて、前示のようにそのこと自体あながち不当とはいえず、また、本件犯行現場におけるピケッティングは、その時間も、判示第一については機動隊の排除の気配によつて解かれたものとはいえ、約一一分間、判示第二については被告人らが検挙されたことによるとはいえ約五分間の短時間にすぎず、バス、乗用車、タクシーなど港湾労働と無関係なことが明白な車輛についてはこれを阻止することなく通過させており、停止車輛も判示第一については約二五台、判示第二については五〜六台程度と認められ、判示各被害車輛も別表(一)の1及び(二)の5を除いては一応予定された業務は遂行されたものと認められ、別表(一)の1の被害車輛も、予定していた荷物の積込はできなかつたが、それはストそのものによるのであつて本件ピケッティングの故によるものではなく、また、別表(二)の5についても、判示運転者稲田斉は当初予定された午後の業務につき若干の支障を来たしたことが認められるが、右稲田証言によれば右遅れは本件ピケッティングのみによるものではないというのであり、このことは同人の帰社時間の遅れが本件現場における待機時間を大幅に上回つていることによつても明らかであつて、いずれもほとんど実害はなかつたものであり、また、本件ピケッティングのため交通渋滞が起つたものとも認められないのであつて、そうすると、被告人らの本件各犯行は、前示のようにその違法性阻却事由こそ認められないものの、さまで違法性の大なるものともいえず、しかも被告人らはいずれも組織の指示に従つて行動したに過ぎないものであることや、本件現場での総指揮者は処罰されていないこと、被告人らにはいずれも前科、前歴のないことなどを合せ考えると、罰金刑をもつて臨むべきものと思料する。

よつて、主文のとおり判決する。

(大政正一 岩城晴義 楠眞佐雄)

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